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1.ホーボーへ(おおはた雄一)
作者のおおはた君は自分より一回り下の世代のホーボーミュージシャン。
ギター一本持ってどこへでも歌いに行ける彼のフットワークの軽さは、バブル崩壊以降に音楽活動を始めた世代が再び身につけつつある強さの一つのようにも思う。今日本で最も共感できるシンガーソングライターの一人。 「空気感」「共鳴」を大切にする彼の姿勢は、今回の自分のアルバムにも共通していると思う。

2.魚ごっこ(BO GUMBOS)
ボ・ガンボスは、80年代後半から解散する90年代半ばまでの間、自分だけでなく多くの人にとって日本で最も重要なロックバンドの一つだった。
「魚ごっこ」はシンガーソングライター的な内省に、ロックバンドのビート、肉体性、そしてユーモアが融合された名曲だと思う。
今回のレコーディングは通常の録音スタジオを使用せず、江ノ島の海沿いのビル7階にあるライブホール「虎丸座」を借りて行った。その場所でグランドピアノ2台を横並びにして、江ノ島の景色を一望しながら録音を進めた。
この曲ではニューオーリンズスタイルのピアノをフィーチャー。


3.アフリカの月(西岡恭蔵)
この曲の作曲者であり、日本のシンガーソングライター、ホーボーミュージシャンの先駆者的存在である西岡恭蔵さんとは、自分が大学生の頃に出会った。
時はバブル全盛。そんな時代に、恭蔵さんや、有山じゅんじさん、友部正人さん、高田渡さんといった、メジャーフィールドを離れ、草の根のネットワークを頼りに活動するホーボーミュージシャンの先達に出会えたことは、自分の大きな財産になっている。
今回のアルバムのレコデーィング中は天候に恵まれ、快晴の日が続いた。この曲は、青空の下、海の上を飛び交うカモメやトビを間近で眺めながら、ゆったりとした心持ちで録音した。
作詞のKUROさんは恭蔵さんの奥さん。

4.サヨナラCOLOR(SUPER BUTTER DOG)
21世紀以降に生まれた日本のシンガーソングライターによる屈指の名曲だと思う。
アルバムの中で、実はこの曲のアレンジに一番悩んだ。
いきついた発想は、とにかく音を抜いてゆく、足し算ではなく引き算の演奏に徹するということ。余計なアレンジを加えるのではなく、音数を減らし、歌と1音の響きを聴かせることに重点を置いた。
結果、同時録音の緊張感と響き、共鳴に満ちた旬のテイクを残すことができたと思う。

5.スローなブギにしてくれ(南佳孝)
高校1年生の頃に、この曲をテレビで歌う南桂孝を見て、ピアノの弾き語りのかっこ良さを知った。
レコーディングでは、テイクを重ねるうちに力が抜けて曲のテンポが遅くなってゆき、最終的には随分とレイドバックしたテイクが収められた。アルコールを注入しながら演奏したことも影響していると思う。
そもそも、この曲でもフィーチャーされているニューオーリンズ.テイストのピアノは、アルコールのニオイのする猥雑なストリートから生まれた、言わば酒場育ちのピアノスタイル。そんな空気も伝わるテイクが録れたんじゃないかと思う。

6.時の過ぎゆくままに(沢田研二)
3つ上の姉がジュリーの大ファンだった。
ちなみにジュリーは京都出身の同郷で、小中高の大先輩。
この曲を初めて聴いたのは多分小学5年生の頃だったと思う。大人の男女のやさぐれ具合が、子供心にもすごく魅力的だった。
このテイクも深夜にアルコールの力を借りながら録音した。お陰でピアノがいい感じで酔っぱらってくれた。

7.キャンディー(原田真二)
中学2年生の頃にテレビの歌番組を通して原田真二の存在を知った。ピアノで弾き語る日本人を見たのはその時が初めてだった。当時の原田真二の一連のヒット曲は、とても洗練されていて、洋楽に負けないかっこよさがあった。
「スローなブギにしてくれ」の作詞者でもある松本隆による歌詞のクオイティーの高さを認識するようになったのは、曲を知ってから随分後のことだった。

8.氷の世界(井上陽水)
井上陽水という人は自分にとって、共感するというよりは、とにかく有無を言わさぬ才能を感じさせるちょっと困った存在。
この曲はDJがリミックスするような感覚でアレンジしている。楽曲を一度解体して再解釈することによって、ほとんど自分のオリジナル曲のような気分で演奏してる。
そう言えば他のカヴァー曲も、あまり人の曲を歌っているという意識はないかも。
ただカヴァーだからこそ自由に表現できる部分もあるように思う。

9.機関車(小坂忠)
自分にとっては究極のラブソング。聖と俗に引き裂かれた葛藤、やるせなさが凝縮された、やばい歌だと思う。
この曲は歌詞の一部が問題になってオンエアが自粛されることが多いようだ。
実際に、自分もライブでカヴァーさせてもらったときに、歌詞の一部が不適切ではないかというクレイムを受けたことがあり、考えさせられた。
表現によって意図的に誰かを傷つけようとは思わない。けれど、それが真実に触れるとき、誰をも傷つけることなく表現することが可能なのだろうか?
自問自答を繰り返しながら「機関車」を歌い続けようと思う。

10.やさしさに包まれたなら(荒井由実)
この曲の素晴らしさに気付いたのは、2年前に東京から江ノ島近くに引っ越してからのこと。海の近くに引っ越して以降、暮らしの中で自然に触れる機会が多くなり、東京にいる頃より五感のバランスがよくなった気がする。その変化は今回のアルバムにも確実に反影されている。 前述したように、今回のレコーディングは、海沿いのビルの7階から江ノ島の景色を一望できる最高のロケーションの中で行われた。つまり、この曲と同様に自然に抱かれる感覚の中でレコーディングを進めることができたのだ。
昼間は自然の力を、夜はアルコールの力を借りてのレコーディングは、現在の自分のライフスタイルそのものだ。

11.道草節(SOUL FLOWER UNION)
同じ関西出身、同世代でもあるソウルフラワーユニオンの中川敬による名曲。
この曲ができた当時、作者本人から「この曲はリクオのような年中日本各地をツアーしているホーボーミュージシャンのことをイメージして書いた」という話を聞いていた。
「道草節」というタイトルからしていいなと思う。
「人生は道草」
異議なし!

12.胸が痛いよ(リクオ&忌野清志郎)
アルバムの中で唯一のセルフカヴァーで、忌野清志郎さんとの共作。
今迄自分が残してきた作品の中で、今回のアルバムが一番、シンガーとして納得のゆくテイクが残せたと思っているのだけれど(あくまでも現時点で)、特に、このテイクを残せたことは自分にとって大きい。
ピアノ弾き語りは、共演者のいない孤独なスタイルではあるけれど、今回のレコーディングでは、閉塞感のない風通しのよい環境の中で、じっくりと自分に向き合うことで、集中力を高め、自然の力、楽曲の力、あの世の力、アルコールの力、地元の人達のオープンマインド等々有形無形問わずさまざまなエネルギーを受け取りながら作業を進めることができた。 ライブの時に感じることのできた「響き」「共鳴」「エネルギー循環」を、やっとレコーディングにも取り入れることができた気がする。